古畑任三郎が過去に一度だけ、まったく捜査に集中できなくなった瞬間がありました。
第3シリーズの第6話の『絶対音感殺人事件』です。
この回の犯人役は市村正親さんで、演じたのは、甲陽フィルハーモニーの指揮者である黒井川尚でした。
黒井川は、奥さんがいるにもかかわらず、同じ楽団に所属するビオラ奏者の滝川ルミ(街田しおんさん)と、愛人関係にありました。
しかし滝川ルミは、黒井川に別れ話を持ちかけます。
未練タラタラの黒井川。
強がりを見せながら、滝川ルミの新しい恋人を聞き出そうとするも失敗。
そして別れることに納得しない黒井川は、滝川ルミに迫るのですが・・・。
あからさまな彼女の拒否反応に頭が真っ白になり、テーブルに置いてあった大理石の灰皿でとっさに撲殺してしまったのです。
この事件の指揮することになったのが、警部補・古畑任三郎でした。
今回は、古畑任三郎が登場冒頭で口ずさんでいた歌についてまとめました。
古畑任三郎の集中力を欠いた歌とは?
古畑任三郎は事件現場で、ある曲を口ずさんでいました。
ワンフレーズなのですが、とにかく気になって気になって仕方がない様子です
物語の終盤、犯人の黒井川によって明らかにされましたね。
その曲とは、ザ・ドリフターズが歌う『ドリフの真赤な封筒』でした。
軽快なリズムと歌詞ですよね。
しかし古畑任三郎が口ずさんでいたのは、非常にゆったりとした曲を思わせる「ラララ~」でした。
事件現場では事件そっちのけで「ラララ~」の捜索にいそしむ姿は、古畑らしさが出ていていいですよね。
西園寺守への聞き込み
古畑はまず、真面目で仕事のできる小男・西園寺守に曲を聞かせます。
西園寺は、最初は思いつかなかったのですが、事件の捜査中にふとひらめきました。
その曲が『エリーゼのため』です。
でもこの曲は、古畑をモヤモヤさせている曲ではありませんでした。
※西園寺が『エリーゼのため』と、タイトルの間違えを指摘したのが今泉慎太郎でした。
正しくは『エリーゼのために』と、得意げに披露する姿は非常に可愛らしいです。
向島巡査への聞き込み
建物の非常階段から事件現場への移動中に、すれ違う向島巡査を捕まえ「ラララ~」と歌ってみせますが。
「あぁっ!」なんて、期待させておきながら、
「なんでしたっけ?」なんて、期待ハズレもいいところ。
でも、古畑の役に立ちたいという気持ちが全面に出たやり取りでした。
犯人・黒井川への聞き込み
殺人事件の関係者への聞き込みとして、殺害された滝川ルミの追悼式に出向いた古畑一行。
会場で声をかけたのが、犯人の黒井川でした。
事件に関することを尋ねようと息を吸った瞬間、音楽関係に携わる黒井川にも「ラララ~」を歌いましたね。
事件と関係ないことを質問され不審に思いつつも、真摯に『エリーゼのために』と答えるところは、黒井川は根っからの悪ではないんですよね。
犯人・黒井川への聞き込み 二日目
翌日、古畑は今泉慎太郎を連れて、再び黒井川のもとを訪れます。
古畑の姿を見るやいなや黒井川は、『ラ・カンパネラ』ではないか歌ってみせました。
さすが音楽に精通してるいだけあって、黒井川の「ラララ~」はなめらかですね。
しかし「そんな曲は知らない」と、古畑に一蹴しました。
※徐々に思い出した古畑は、「ラララ~」に歌詞がついていることを、ここで告白します。
犯人・黒井川への聞き込み 三日目
古畑が思い出した歌詞、「きょおおもあのこから~」だけを頼りに、黒井川は『真赤な封筒』を見つけ出しました。
古畑に、滝川ルミ殺害の犯行を暴露されるとは露ほどもおもっていない黒井川の、意気揚々とした姿は、ちょっとウケます。
しかし犯行を認め、観念したあとの黒井川はスッキリとした表情になっていました。
レコーディングスタジオで、古畑のためにダビングした『真っ赤な封筒』をかけたあげると・・・、
「あぁ!」
「これでしょう。あなたが気になっていた曲は」
「なんて曲ですか?」
「真赤な封筒!元はハワイ民謡です」
「歌っているのは・・・?」
「ザ・ドリフターズ!!」
「これ!加藤茶!」
「加藤茶!」
「なぁーんだぁ(そうだったのか)」
古畑もまた、黒井川のおかげでスッキリとした表情を浮かべるのでした。
もはや、刑事と犯人の間で交わされる会話とは思いませんよね。
黒井川が連行されていったのちに、テープをとめ、プレイヤーから取り出すと、満足げに胸にする古畑。
そして、そのテープを大事そうに持ち帰っていくのでした。
古畑任三郎の集中力を欠いた『真赤な封筒』とは
黒井川は次のように説明していました。
『真っ赤な封筒』
元はハワイ民謡です。
でも実は、ハワイ民謡ではないらしいんですよ。
・真っ赤な封筒
・ドリフの真っ赤な封筒
時系列順位ご紹介していきます。
Oh By Jingo!(オー・バイ・ジンゴ)
おおもとをたどると、1919年に『Oh By Jingo!(オー・バイ・ジンゴ)』という曲名で発表された楽曲でした。
作詞:ルー・ブラウン
コミックソングということもあって、歌詞は馬鹿げた内容になっているようです。
※歌詞はこちらをご参照ください。『Oh By Jingo!(オー・バイ・ジンゴ)』
この曲は、ブロードウェイのショー「Linger Longer Letty」で取り上げられたことをきっかけに、第一次世界大戦後、ティン・パン・アレー界隈で大ヒットしたそうです。
この大ヒットからの10年間は、模倣曲がいくつも作られたそうです。
今となっては、『盗作』や『音楽著作権侵害』として訴えられるっていうのにね。
真っ赤な封筒
日本では1937年、永田哲夫さんによって、コミカルな歌詞がつけられました。
『和訳』とはなっているものの、歌詞の内容は原型をとどめておらず、まったく違った歌になってしまっています。
歌っているのは、灰田勝彦さんです。
ドリフの真っ赤な封筒
『真っ赤な封筒』は1972年、ザ・ドリフターズによってさらにコミカルな歌詞がつけられました。
曲のタイトルも『真っ赤な封筒』の前に『ドリフの』という文言が加えられました。
歌詞は・・・、1番は灰田勝彦さんの『真っ赤な封筒』とほとんど変わっていないのですが、2番以降は完全にドリフオリジナルとなっています。
このとき歌っているメンバーに荒井注さんがいて、志村けんさんが不在なことに歴史を感じてしまいますね。
しかし、あのザ・ドリフターズが音楽バンドとしての活動していた時期があったなんて、驚きでした。
ザ・ドリフターズが音楽バンドとしてデビューしたのが1956年。
1969年までの13年間はミュージシャンだったわけです。
ザ・ドリフターズを結成する前にも別のバンド名で音楽活動をしており、そのメンバーに坂本九さんや横山やすしさんも在籍していたそうです。
1970年からは、バンド活動よりもコントグループとして活躍するようになっていくのですが、これはテレビの普及がきっかけになったそうです。
『8時だヨ!全員集合!』や『ドリフの大爆笑』などでお茶の間をわかせてくれましたね。
加藤 茶 / ドラムス・ボーカル
高木 ブー / ギター、キーボード
仲本 工事 / ギター・ボーカル
荒井 注 / オルガン
志村 けん / ギター・キーボード
古畑任三郎はザ・ドリフターズにご執心?
実は、古畑任三郎シリーズでザ・ドリフターズの名前が登場するエピソードが、もうひとつあるのをご存じでしょうか。
それは、第1シリーズの第1話『死者からの伝言』です。
この回の犯人は小石川ちなみで、中森明菜さんが演じられました。
小石川ちなみは自分をもてあそんだとして、プレイボーイの恋人であり編集者の畑野茂(池田成志さん)を金庫に閉じ込め、窒息死させました。
犯行3日後、再び別荘に訪れた小石川ちなみは、畑野の死を確認してから警察に連絡を入れます。
しかし、この日は嵐でした。
土砂崩れなど悪天候のため、警察にはすぐに来てもらえず途方に暮れていたところに、古畑が姿を現したのでした。
畑野の遺体を確認した古畑は、手がかりを捜すために、畑野の荷物にある手帳から有力な情報を得ます。
3日前、『C』のイニシャルの女性と連れ立って別荘に来ていることを突き止め・・・。
イニシャルが『C』の『ちゃ・ちゅ・ちょ』で始まる名前を巡らせるシーン。
ここでザ・ドリフターズのメンバー、加藤茶さんと荒井注さんの名前が出てきたのです。
「一応ふたりにはあたってみますが、おそらく関係ないでしょう」
確かに、加藤茶さんと荒井注さんは男性なので・・・事件には関係ないのですが・・・。
いかりや長介さんも、イニシャルが『C』ですよ!古畑さん!!
荒井注(ちゅ)
いかりや長介(ちょ)
古畑任三郎の集中力を欠いた歌とは?ザ・ドリフターズ真っ赤な封筒のまとめ
古畑任三郎に「(捜査に)集中できない」とまで言わせた『真っ赤な封筒』についてまとめました。
集中できない割にはしっかり気になる点をおさえて、滝川ルミ殺害の犯人を逮捕しました。
犯人にぐうの音も出ないまでに証拠を突きつけ追い込む古畑は、どのエピソードでも水を得た魚のように目が輝いていますよね。
黒井川を追い詰めるときの「お認めになりましたね」は、どこまで犯人に丁寧なんだって思うんだけど。
そこが他の刑事ドラマと違って、犯人に愛される刑事なんだと思います。